大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(むのイ)841号 決定

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨は「1、東京地方検察庁検察官原武志が、昭和四七年九月三〇日午前一一時二〇分ころ、申立人に対してなした被疑者との接見を拒否する処分を取消す。2、同検察官が警視庁菊屋橋分室代用監獄管理責任者警視総監に対してなした被疑者と弁護人または弁護人となろうとする者とが接見するためには予め同検察官が発行する接見指定書を持参しなければならない旨の処分を取消す。3、同検察官は現に被疑者を取調べている場合で、かつ被疑者の防禦権の侵害とならないとき以外は申立人と被疑者との接見を拒否してはならない」との裁判を求めるにある。申立の理由は準抗告申立書に記載のとおりであるから、ここに引用する。

二、当裁判所の事実取調べの結果によると、申立人は昭和四七年九月三〇日午前一一時過ころ、被疑者が勾留されている警視庁菊屋橋分室代用監獄におもむき接見の申出をしたが、係官から検察官の発する接見に関する具体的指定書を持参して欲しいといわれて面接できなかったので、同監獄前の公衆電話をもって、担当の東京地方検察庁検察官原武志に接見できない理由を問い質したところ、同検察官から「現在被疑者を取調べ中であるが、取調べを切り上げ、或いは打ち切るなどして昼食時もしくは夕食前に時間をさき接見できるよう手配するので、具体的指定書を取りに来庁されたい。指定書がないと取調べ中であるから面接できません。」との回答があり、これに対し申立人は「検察官に面接を指定する権限はないから、指定書は取りに行かない。すぐ会えるようにすべきである。」と述べ、そのまま物別れとなったこと、申立人が右代用監獄に行った際司法警察員において被疑者を取調べ中であったことが認められる。

三、右認定の事実によると、申立人の接見申出のとき司法警察員が被疑者を取調べ中であったのであるから、その際原検察官において申立人の接見につき捜査の必要を理由に日時、時間のいわゆる具体的指定をなすことは、もとより正当である。ところで、刑訴法三九条三項の接見指定の方式(書面によるか、電話などの口頭によるか)、手段(書面によった場合、弁護人が持参すべきか、検察官が適宜送付すべきか)については、法律上何等の規定がないのと、実務上の慣行が必ずしも定着していない実状からして一箇の問題ではあるが、一律に必ず文書によらなければならないとか、常に、口頭で足りるとすべき実質的根拠は乏しいのみならず、弁護人または弁護人となろうとする者と被疑者との接見交通は本来自由であると言ってみても、そのこと自体から直ちに指定方式を書面によることが不当で許されず当然口頭によるべきであるとの論理的必然性はでない。結局現行法上は接見指定の方式、手段については、検察官が、被疑者の留置場所、弁護人等と検察庁との場所的関係、弁護人等と被疑者との接見の必要性、緊急性、予想される紛糾性などの、具体的事情に測して判断すべく、その健全な裁量に委ねられた事項であると解する。その結果もたらされる若干の不便、不利益は、処分が右裁量の枠内にとどまる限り、これを受忍すべきほかはない。本件において原検察官が申立人に対し書面による指定をしようとしたことが、右に述べた健全な裁量の範囲を逸脱したことの疎明はなく、むしろ申立人が指定書の受領を拒否しているがため接見できないのであるから、原検察官の処分に違法はなく、申立の趣旨1項は理由がなく、同2項のような一般的指定処分を同検察官がなした事実はないから同項の申立はその対象を欠き、同3項は捜査の必要性が全く消滅したことが明らかに認められない被疑者につき検察官に予め違法行為をすべきでないことの宣言を求めるものであって準抗告で更になすべき裁判に当らない。

よって本件準抗告の申立は理由がないから刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 中野武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例